大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和37年(ネ)190号 判決

控訴人(原告)

鷲野英夫

代理人

鈴木匡

大場民男

被控訴人(被告)

津島市農業委員会

代表者

右委員会長・松村治郎

代理人

若山資雄

主文

原判決を取消す。

被控訴人が別紙目録記載の土地につき、昭和二二年一二月一〇日自作農設特別措置法に基づきたてた買収計画は無効であることを確認する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文第二項の買収計画樹立の日の昭和二二年一二月一〇日とあるを昭和二三年一月二七日とするほか主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用および書証の認否は、左記のほか原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。<以下省略>

理由

一、当裁判所も原審と同様、本件買収計画は昭和二二年一二月一〇日津島市農地委員会により可決承認されたもので、その決議が不存在とはいいえないものと考えるし、又本件土地は右買収計画当時宅地であつたもので、本件買収計画は農地でも小作地でもないものに対してなされた違法のものであり、その瑕疵は重大なものであると考える。その理由については左のとおり附加するほか、原判決の説示するところと同じであるから、原判決理由記載中当該部分(原判決五枚目表八行目から同九枚目裏三行目まで)を引用する。

当審証人渡辺憲一、同大宮寅治郎の各証言のうち原判決の認定に反する部分はにわかに措信し難く、その他当審において提出援用された証拠によるも右認定を左右しえない。

二、次に、本件買収計画に存する瑕疵が明白であるかどうかについて考察する。

ところで、行政処分の無効原因の要件としての瑕疵の明白性の意義については、その行政処分をした行政庁の判断(法律要件の存否に関する)が一見して容易に認識しえられる事実関係からみて、何人にとつても明白な過誤と認められる場合に厳密に限られるか、または行政庁がその職務を誠実に遂行する限りにおいては、当然なすべき調査によつて直ちに判明するような事実関係をも参酌して明白な過誤と認められる場合をも含むと解すべきか、論議の存するところであろうが、当裁判所は広義に解する後者の見解に左袒するものである。けだし行政庁が行政処分をなすにはそれ相応の調査をなすべき義務の存することはもちろんであるからその義務さえ守られたなら直ちに判明するような事実の誤認は客観的にはなお明白なものとして行政処分を無効ならしめても行政処分の安定性を害する虞はないからである。

かような観点のもとに調べてみると、<証拠>によれば、本件買収計画樹立当時すでに本件土地のうち、旧字名津島市大字又吉八の割二七六番の二の北東隅六四坪四合の部分は訴外内田春雄が同地上に木造平家建居宅を新築所有していたこと、本件土地の周囲の状況は本件買収計画当時、南はすべて宅地に接し、右旧字名二七六番の二のうち右訴外内田が居住を新築した部分の北側は川口毛織工場の敷地に隣接しており本件土地の東側は道路を隔てて用水路となつていたことが認められ、右認定を左右しうる証拠はない。このような周囲の状況やことに本件土地が宅地として造成された原認定のごときその経過、利用の状況等からみれば、本件土地の処分庁である津島市農地委員会側においてなすべき相当な調査を怠らなかつたならば、本件土地の一部が菜園に使用されていたとはいえ、それはもとより戦後の食糧事情の極度に窮乏した時期における一時的現象に過ぎなかつたのであるから、本件土地は農地ではなく宅地であるとの判断にきわめて容易に到達し得べきであつたものといわなければならない。そうすれば、本件買収計画に存する瑕疵は客観的に明白であつたというべきである。

三、従つて、被控訴人が本件土地につき昭和二二年一二月一〇日たてた買収計画は無効であるといわなければならない。控訴人は買収計画が昭和二三年一月二七日になされたものとしてこれが無効確認を求めるがその趣旨は被控訴人が本件土地についてたてた買収計画の無効確認を求めるにあるとみられるから、控訴人の本訴請求は正当として認容すべきである。右と判断を異にする原判決は結局維持し難いからこれを取消すこととし、民事訴訟法第三八六条第九五条を適用して、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官成田薫 裁判官神谷敏夫 丸山武夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例